新型ウィルスの影響により、教育が遅れていることが議論され、日本で長く続いてきた、4月入学をやめ、9月入学にしようという意見まで出てきました。9月入学にすることは、日本にとって良いことなのかどうかについて、お答えしていきます。
日本の入学式と言えば、桜が満開の中でやることが当たり前になっています。
実際、満開の桜の中で撮った写真は、一生の思い出になることは、間違いありません。
しかし、2020年は桜満開の時期になっても、入学式どころか、授業ができない地域が多々あります。
このような状況の中で、9月入学への変更がささやかれ始め、混乱されている方が多いのではないでしょうか。
そこで今回は、学生の9月入学のメリット・デメリットについて、解説していきます。
9月入学に変更することによるメリット
さっそく、9月入学に変更することによるメリットから、解説していきます。
9月入学にするメリットは次の3つです。
・学習の遅れを、余裕を持って取り戻すことができる
・欧米諸国などと足並みをそろえることで、留学などの交流が盛んになる
・インフルエンザ等が流行する時期に、入試をおこなう必要がなくなる
それぞれ、解説していきます。
学習の遅れを、余裕を持って取り戻すことができる
今回、9月入学について、意見が出始めた最大の理由は、学習の遅れに対する、対処法です。
3月の休校から、2ヶ月以上学習ができていない地域が多々あります。
そして、5月も学校に行けないことは、ほぼ決定しているため、最大で3ヶ月分の遅れが生じることとなります。
1ヶ月分であれば、夏休みを短くしたり、土曜日に授業を実施したりすることで、なんとかできるかもしれませんが、3ヶ月分の遅れを取り戻すことは、今の日本の教育制度では、実質不可能です。
そもそも、仮に6月から学校が再開できたとしても、ほぼ休みなしで3月まで授業が続けば、完全に詰め込み学習となります。
それが果たして、子どもたちにとって意味のある授業なるのでしょうか?
もっと言えば、学校というのは、知識を得るためだけに行くところではないと思います。
仲間と一緒に行動することによって生まれる仲間意識や、部活動を通じて鍛えられる精神力も、社会で生きていくには、重要なものです。
そういった学習以外のものを、育てるためにも一定の時間が必要となります。
そう考えると、9月の段階でウィルスの蔓延が一段落していることが、前提とはなりますが、遅れを取り戻しつつ、無理矢理詰め込めるような授業にならない方法は、9月入学ということになります。
欧米諸国などと足並みをそろえることで、留学などの交流が盛んになる
日本では、4月入学が当たり前になっていますが、世界的に見れば、実は9月入学が一般的です。
つまり、日本は世界的に見れば、異質なカリキュラムを組んでいることになります。
それゆえに、交換留学などのシステムが、なかなかうまく構築できていないところがあります。
もし、これを機に日本が9月入学を制度化することができれば、欧米諸国と足並みをそろえることになるので、さまざまな交流がおこなわれるように、なるでしょう。
しかし、これに関しては、思っているよりは、盛んにならない可能性が高いと思います。
というのも、日本の教育と欧米諸国の教育には、もう1つ異なる点があります。
それが、年齢主義と課程主義です。
日本は義務教育の期間であれば、年齢が増えない限り、次の学年に進級することはできません。
逆に、どんなに学習内容が理解されていなくても、極端に言えば、学校に行けていなかったとしても、年齢を重ねれば、勝手に進級することができます。
それに対して、欧米諸国の多くが、課程主義をとっています。
年齢はあくまで目安であって、学習の習熟度によっては義務教育期間中であっても、同じ学年を繰り返すこともある、ということになります。
つまり、そもそもの考え方に違いがあるので、入学月が揃ったところで、それだけで交流が盛んになるとは考えにくいのです。
インフルエンザなどが流行する時期に、入試をおこなう必要がなくなる
入試は現状、1月~3月をメインにおこなわれていますが、この時期日本では、インフルエンザなどが流行する時期です。
ラストスパートをかける時期であると同時に、体調管理に注意を払わない時期であるため、受験生本人はもちろん、その家族も非常に神経をすり減らす時期になります。
それが、9月入学になった場合には、単純に考えれば、入試時期が6月~8月になるので、体調面に関して言えば、冬よりも管理がしやすくなります。
つまり、入試という観点で見ると、9月入学は受験生本人にとっても、その家族にとっても、とても嬉しい変更になるのです。
9月入学に変更するデメリット
ここまで説明したとおり、9月入学にはさまざまなメリットがあります。しかし当然ながら、デメリットもあります。それについても解説していきます。
9月入学にすることによる、デメリットは次の3つです。
・教育基本法の改正が急務になる
・今まで同級生だった人が、先輩や後輩になる可能性がある
・家庭や学校に費用負担が増える
それぞれ詳しく解説していきます。
教育基本法の改正が急務になる
口で言うのは簡単ですが、教育基本法には、4月入学を原則とすると明記されています。
入学時期が変わった場合には、その他にもさまざまな変更が必要になるため、教育基本法を大幅に改正する必要があります。
憲法ほどの複雑な手続きは必要ないですが、社会の流れを変えるような大きな変更となるため、十分な話し合いが必要になるでしょう。
そうなると、すぐに変更するのは難しいのではないかと、考えられます。
また、先ほど紹介した入試に関しては、あくまで一般入試の話であり、推薦入試などについてはどうするのか、早急に仕組みを構築する必要がでてきます。
今まで同級生だった人が、先輩や後輩になる可能性がある
9月入学に変更されるということは、学年の区切りが変わるということになります。
現在日本の学年区分は“4月2日生~翌年4月1日生”となっていますが、これも変更になります。
これから入学をする生徒に関してはあまり気にする必要ありませんが、現在すでに学校に通っている生徒からすれば、場合によっては今までと学年が変わってしまう可能性があるのです。
つまり、今まで同級生として一緒に過ごしてきた仲間が、急に先輩または後輩となる場合もあるため、子どもたちに混乱が生じる可能性がでてきます。
また、実際に入学月が変更された年に関しては、1学年の生徒数が通常の1.5倍になるため、先生の数を確保するのが難しくなります。
子どもの精神面や、先生の確保が難しくなることを考えると、決して安易におこなえることではない、ということになります。
家庭や学校に費用負担が増える
9月入学に変更になった場合、しっかり考えなければならないのが、金銭的な負担についてです。
結果的には、全ての子どもが半年留年することになるため、その半年の間、余計に費用が多くかかることになります。
特に、寮生活や一人暮らしをしている学生をもつ家庭にとっては、非常に大きな負担になることは間違いありません。
また、負担が増えるのは、家庭だけではありません。
学校側からしてみても、特に私学は資金の巡りが半年間滞ることになるため、経営状態によっては、運営が難しくなる可能性があるのです。
万が一、経営難に陥り、学校を閉校せざるを得ない状況になれば、今その学校に通っている生徒にとっては、とんでもないことになります。
9月入学を実施するのであれば、学費などの保障をセットでおこなう必要があります。
そもそもなぜ日本は4月入学なのか
そもそも、日本で本格的に教育がおこなわれるようになったのは、江戸時代です。
当時は、学年などの区分は一切なく、随時入学するような仕組みがとられていました。
それが明治時代になりある程度学制が整い、学年の区分ができてきました。
しかし、実は日本でも明治初期のうちは9月入学が主流でした。
それが、明治19年(1886年)に、今の4月入学へ変更されました。
なぜ変更されたのでしょうか?
もちろん、「桜の時期に入学式をやりたいから!」という理由ではありません。
4月に変更にされた理由は、簡単に言うと、予算の区切り(会計年度)が、4月~翌年3月と財政法で明記されたため、学校の年度もそれに併せた、ということです。
当時は、農家が多かったため、秋に収穫を迎えてから、税金を準備するまでに時間がかかったために、会計年度を3月にせざるをえなかったのです。
しかし、今は明治時代とは生活環境が大きく違うため、会計年度を変更すること自体には、大きな影響はないでしょう。
もし財政法を変更することができなかったとしても、会計年度と学校の入学月が異なっていたとしても、問題ありません。
つまり、日本の現状であれば、欧米諸国と足並みをそろえて、9月入学にすることは十分に可能なのです。でもそれをしてこなかったのは、単純に変更するのが面倒だったからです。今一度、日本の教育制度に関して本気で考える時がきたのです。
もちろん、9月入学に変更することが必ずしも正しい答え、といわけではりません。
しかし、日本の未来を担う、大切な子どもたちの、未来のために、もう一度本気で教育制度を考える必要があるのは、事実です。
子どもたちにとって最も良い形での、教育再開を祈りたいところです。
まとめ
今回は、学生の9月入学のメリット・デメリットについて、解説していききました。
もう一度整理すると、
・9月入学にすることで、学習の遅れを、無理に詰め込むことなく取り戻せる可能性がある。
・9月入学にすると、金銭的な負担が増える家庭や学校が多いため、保障をセットで考える必要がある。
・世界的に見れば、日本の4月入学は異質である。この機会に、世界各国と足並みをそろえるチャンスとも言える。
となります。
教育を変えるというのは、決して簡単なことではありません。
意見が一致することもないでしょう。
あなたはどう思いますか?
この記事を参考に、あなた自身の意見を、考えてみてください。